とある夜の、十三峠で




仕事が終わり帰宅する。

その日は十三峠で夜練をするつもりだったが、
どうにも気が乗らない。

職場から自宅までの道中も
「もういいや、今日はサボろう…」
と内心思いながら歩く。


コンビニによってメロンパンを買う。

歩きながら袋を開けて食い始める。
(いい大人が!)

自宅に着き、
玄関に入ると夜練用のライトがセットされた自転車が目に入る。
(前日にすでに準備をしている)



ため息をつく。



………だるっ。




とりあえずジャージを着る。
とりあえずヘルメットを被る。
とりあえずシューズを履き、とりあえず自転車抱えて玄関を出る。
とりあえずサイコンを起動させ、とりあえず走り始める。



「とりあえず」「とりあえず」、
そうやって自分を騙しながら無理矢理動かすのはよくやる。
(フットインザドアテクニック!)




とりあえず大竹七丁目に到着。

ひとり苦笑。

結局やるんかーいw



ここまで来たらもう「とりあえず」ではない。
全力で十三峠を登り始める。



時刻は22時前くらい。
この時間帯でも気温は20℃近い。
半パン半袖でも寒くない。良い時期だ。


そうして一本全力で登りきる。


ゴールの展望台に着くとそのままUターンして下る。


今日はもう一本登る。


十三峠からの夜景を見に展望台までドライブに来てる人も多いが
もう大阪の夜景などクソどうでもよい。見飽きてるわ。


スタート地点の交差点まで戻ると、
また登り始める。

二本目も脚は回る。調子は悪くない。



すると
最初のヘアピンを過ぎたあたりで後ろから気配。
誰か来た。


エンジン音を聞くだけでなんとなくどんな車か察しがつくように、
その気配、後ろからの走行音を聞くだけで分かる。


この人……速いぞ。



振り向くとすごい勢いでダンシングで登られてくる方。

あっという間にパスされて、一気に距離が開く。


そのままダンシングでグイグイ進む。


自分はダンシングがいまだに下手だ。
どうしても力任せに踏むだけの無理矢理なものになってしまう。
自分がダンシングをすると直後に間違いなく失速する。
というかダンシングって一時的に高強度で「無理して踏むもの」だといまだに思っている。


が、その方のダンシングは別モノだった。
力強く進み続ける。


ただ、どこかでシッティングに戻るだろう、
後ろからそう思っていたが、まったく腰を落とす様子が無い。


おい、マジかよ。

距離がさらに離され、
カーブを挟んで姿が見えなくなる。


また視界が開けたところでその姿を再び見ると
なんとまだダンシングのまま走り続けている。


いや、
え、
このままずっとダンシングで十三峠を登りきるのか……!?


平均斜度10%の坂を延々ダンシングで登り続ける。
クソ速いスピードで。


出来るのかそんなこと。
自分にはできん。


すげぇ。
と思い、
同時に

追いつかなきゃ勿体ない

とも思う。


必死に追う。


暗闇の十三峠で
先行するライトの明かりを
全力で追いかける。


自分のライトが再びその方の背中を捉えると、
やはりまだダンシングのままだ。


いきなり仕掛けた挑戦だが、
おそらくアチラもこっちのライトの明かりが追いかけてきてるのは把握されているだろうし、
「勝負仕掛けてきたな」と認識されてるだろう。


速い。
力強い。
腰を落とす気配もなくダンシングでひたすら進み続ける。




夜の十三峠で誰とも知らない強者との無言の勝負。


ああ…
楽しい。

クッソ楽しい。



距離が縮まったところで残った力振り絞ってアタック。

何とか追いつき、何とか先着。

が、こちらが先にスタートしてるワケだから
当然タイムとしては普通に負けている。



強い。
楽しい。楽しかった。

深夜の十三峠の展望台で、
上がった息を整えながらそう思う。


自分は人見知りな性格なので
普段自分の方から誰かに声を掛けるということはあまりしない。
が、その時は流石に声を掛けさせていただいた。

すると
その方は、
ストラバでフォローさせていただいていたKさんだった。

うわー!この方がKさんだったかー!
どうりで速いハズだわーー!
とひとりでスゴイ納得。


面識はないもののストラバでフォローさせてもらってて
実は自分がすごい気になっていた方だった。

ストラバのログを見ると
十三峠を14分台で登られている化け物(失礼!

自分が普段走ってる六甲山でもメチャクチャ速いタイムを出されている。

これだけ速い方ならレースで絶対上位に入ってるハズだなぁと思い
自分が出たヒルクライムレースでお名前を探してみたりしたが見つからなかった
(やってることがストーカー!)


んー、ヒルクライムの大会には出られてないのかなぁ
普段はどんなレースに出られてるんだろうなぁと
ひとりで勝手に気になってるという


ストラバ見ると十三峠でスライドしてそうなものだが
どなたかは分からず


で、
きょう偶然にも十三峠でお会いすることができ
偶然勝負をさせていただくことができたという
(いや、一方的にこちらから仕掛けたのだが)



今日練習サボらなくて良かったー!
ツイてたわーーw
と内心超ホクホク。



それで色々お話させていただいたのだが、
最近は出られてないそうだが、
以前はロードレースを主に出られてたのこと。

で、お話聞いてたら色々気になって気になってしょうがなくて、
身長、体重、年齢とか片っ端から尋ねまくるという(怖いわお前!


いや、でも楽しいのだ
同じ自転車趣味やってて、しかもメチャクチャ速くて
しかも走り方が自分とまったく違ってて、
そうした方のお話お聞きするのはやっぱり面白い。


深夜の峠で
いきなり勝負し始めて、
初対面なのにその場で色々お話させてもらう、
自転車乗りってのはホント変な生き物だなwと思う


その後一緒に下り始めたのだが、
Kさんは下りも超速くてすぐに見失ってしまった。
(いや、自分が遅すぎるというのもあるのだが)


大竹七丁目の交差点まで下ると
時刻は11時くらいで流石に夜気がヒンヤリしてきたが
それでも先程の勝負とお話を思い返しながら、
内心ホクホクで平坦も頑張って踏みながら帰途に着く。





自分はずっと一人で自転車趣味をやってて
多分これからもずっとそんな感じで続けるのだと思うが
それでも


大会で知り合った方
ライバル視してる方
目標としてる方
レースで競り合ってくれた方
ブログでコメントくださる方
ストラバでフォローしてる方
スライド時に挨拶してくださる方
応援してくださる方
峠で野良勝負してくださる方


こういう自転車を通してできるつながりというのは、
緩やかではあるけれど、楽しいというか微笑ましいというか、
「有難いことやで、ホンマ」
とは思う。思います。

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コメント

  1. nobu より:

    こんばんは♪

    素敵な出会いで羨ましい限りですね〜
    私は多分yoshiさん以上の人見知りなので(いい歳こいて)出会いからの発展はなかなか難しいです^^;

    • yoshi より:

      nobuさま

      こんにちは。乗鞍は今のところ開催の方向みたいですね。
      自分はむしろひとりで気ままに走るのが好きなので今後も基本ソロだと思います。グループやチームで走る面白さもモチロンですが、ひとりでも楽しめるていう、そういう幅広い楽しみ方ができるのも自転車の魅力のひとつなんかなと思っています。(ボッチ擁護!)